今野 敏 D-01 | ||
同期 |
今野敏さんの代表作である安積班シリーズは、敢えて現実にもよく聞くようなシンプルな事件にすることにより、人間模様を際立たせる手法をとっている。僕はこのように理解していたが、本作はすごい。警視庁、警察庁全体を巻き込む壮大な事件。それでいて、人間模様も濃密だ。またまた熱い熱い警察小説が届けられた。
本庁刑事部捜査一課に配属されて1年になる宇田川亮太。望んで刑事になったものの、あまり熱心とは言いがたい。出世街道から外れた植松を刑事として認めてはいるが、小言に対して反感も抱く。そんな宇田川には、公安部所属の蘇我という同期がいた。刑事部と公安部に仕事上の接点は皆無だが、2人は現在でも時々飲みに行く仲だった。
ところが、宇田川たちの捜査一課第五係が暴力団事務所へウチコミに駆り出された直後、蘇我が懲戒免職になったという。行き先も知れず、連絡もとれない。茫然とするしかない宇田川。しかし、蘇我の行方ばかり調べているわけにもいかない。
本作は、宇田川の刑事としての成長記でもある。月島署の特捜本部でコンビを組んだ下谷署のベテラン刑事で、植松の同期である土岐から、刑事の何たるかを教えられる。次第に使命に燃えていく宇田川。しかし、何よりも宇田川を燃えさせたのは、同期の蘇我の存在だ。調べれば調べるほど、蘇我が関与していることが濃厚になってくるのだから。
現実に、末端の捜査員が勝手に動いたら、どんな処分が待っているのか。居並ぶ上層部を前にして、ここまで毅然とした態度をとることはできるのか。これほどの巨悪の構図に肉薄することがあるのか。何より、こんな捜査手法があり得るのか。だが、そんな野暮な見方は捜査員たちの熱意で、捜査現場の熱気で霧散してしまう。
組対四課主導で行われる捜査に、不満を隠さない刑事たち。上には上がいる管理職の悲哀。警察組織内の対立の構図も、一般人には興味深い。しかし、最後には組対も刑事も関係なく、事件解決に向けて一致団結する。組対部も刑事部も、そして表立っては登場しない公安部も、悪と戦う強い思いに変わりはないのだ。
会社の同期と最後に話したのはいつだっただろう。そんなことをふと思った。