今野 敏 K-02


白夜街道


2013/03/29

 前作『曙光の街』で公安捜査員として目覚めた倉島。本作はそれから4年後という設定である。倉島と深い因縁があるあの男が、再び…。

 その男とは、元KGBのヴィクトル。あれからほとぼりが冷め、ヴィクトルは警備会社に勤務していた。朝から課長に呼び出された上田係長と倉島は、ヴィクトルがロシア人貿易商のボディーガードとして日本に入国していることを知る。

 もっとも、あのように処理してしまったのだから、入国させた判断に文句は言えない。情報も流していないのだ。それでも、誰がビザ取得のための招待状を出したのか、知っておく必要はある。課長命令でさっそく調べ始めるのだが…。

 各国情報機関とも密接な関係を持つとされる警視庁公安部だが、あくまで地方警察の一部門である。外務省に出向くも、官僚たちに威光は通用しない。4年経ってさらに成長したのかと思いきや、倉島は相変わらず猪突猛進。駆け引きを知らないのか…。

 やがて外務省も巻き込んだ事態に至り、捜査本部が設置されるが、捜査本部長に就いたのは公安部長。捜査員の大部分を占める刑事たちは、戸惑いを隠せない。そして、公安の倉島と刑事の牛場が、一緒にロシアに派遣されることになった。

 ロシアや周辺国の事情は純粋に読み物として興味深い。昨今はBRICSなどと持て囃されているが、かつての大国ソ連の名残が色濃い。プーチンなど実在の政治家名が出てくるが、大丈夫なのだろうか。そして、モスクワに戻ったヴィクトルの周囲も騒がしくなる。

 モスクワから北へ600kmの村で、いよいよ最終決戦である。前作以上においおいと突っ込みたくなる幕引きだが、前作の事件より悩ましいのは確かだろう。犠牲者といい手口といい…。倉島は、汚れ役としての公安の役割をしっかりわきまえていた。

 一方、刑事の牛島に正直に恥を明かす辺りは、やっぱり公安らしくない。将来大物になるようなならないような、不思議な男である。



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