今野 敏 NS-05


警視庁FC


2011/03/02

 『警視庁FC』という奇妙なタイトル。今野敏さんの新刊は、評価に困る怪作だ。

 「FC」とは、「Football Club」ではなく「Film Commission」の略。映画やドラマの撮影に対して、便宜を図るための特命チームである。室長の長門以下、4名が集められた。

 組対四課、いわゆるマル暴の山岡諒一。交通部交通機動隊の服部靖彦。紅一点、交通部都市交通対策課の島原静香。そして、地域部地域総務課の楠木肇。なお、「くすのき」ではなく「くすき」である。4人とも専任ではなく、本来の業務との兼務である。

 今野敏作品には色々な警察官が登場したが、楠木ほど覇気がない警察官はいない。所轄の地域課と違い、本庁の地域総務課は日勤で週休2日である。定時に登庁して定時に上がる。刑事になるなんてまっぴらごめん。できれば努力などしないで一生を終えたい。草食系警察官とでも言おうか。根が怠け者な僕は、少し気持ちがわかる。

 そんな楠木にとって、貴重な休日にも撮影に駆り出される警視庁FCの任務は、早く降りたいだけ。強面の山岡や管理官クラスが、有名女優を目の前にしてミーハー丸出しなのに、興味がない楠木は何の役得も感じない。命令だからやっている。

 ある映画の撮影中、助監督が殺害された。殺人の捜査は捜査本部の仕事で、警視庁FCの仕事ではないよねえ、と他人事のように思っていた楠木だが、なぜか山岡や長門は捜査に乗り気。どんどん楠木の望まない方向に進んでいくのが面白い。

 楠木もやはり警察官の端くれなのか、自らの好奇心を止めることができない。気づきたくないことに気づいてしまう。そうなると上に報告しないわけにはいかない。何だかんだで生真面目な男である。そして遂に、楠木が至った真相とはっ! ……………。

 これも警察小説の1つの発展形なんだろうか。硬派なイメージの今野敏作品にしては、珍しくお茶目だとだけ言っておきましょう。



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