今野 敏 PQ-01


ジャズ水滸伝


2010/01/10

 本作は今野敏さんの長編第1作であり、7作まで続くシリーズの第1作でもある。凄腕のジャズ奏者4人が集まり、何やら巨大な力と対決していくらしい。近年今野敏作品の復刊に熱心な講談社文庫から、『奏者水滸伝 阿羅漢集結』と改題され復刊された。

 木喰(もくじき)と名乗る僧侶風の老人は、ある目的で日本各地を旅していた。音楽評論家の天野は、即興演奏で知られるジャズピアニスト、ケセル・ギャラリーから謎めいた予言を聞く。やがて木喰と天野が見出した4人の男。

 北海道の大自然に生きる巨漢のピアニスト・古丹神人(こたんかみと)。南国沖縄で大らかに生きる、拳法の達人にしてドラマー・比嘉隆晶(ひがりゅうしょう)。京都の茶道家元の後継者にしてベーシスト・遠田宗春(おんだそうしゅん)。それぞれ地元でムーブメントを起こしていた3人に、学者肌のテナーサックス奏者・猿沢英彦が加わる。

 ジャズはファンを選ぶジャンルだけに、一般の音楽ファンが注目することはない。僕自身ジャスには疎い。しかし、4人は一般の音楽ファンも巻き込み音楽業界を席巻するのだ。それでも、西荻窪の小さな店を拠点にする彼らは、決してメジャーにはなびかない。

 実を言うと、本作は4人が集まるまでの過程が大部分を占める。いわば本作全体がシリーズのプロローグのようなもので、本作1作だけでは感想も何もないというのが正直なところ。終盤になって敵らしき集団がやっと現れるが、今野敏作品の敵キャラとしてはかなりの小物。4人とも戦闘能力をまだまだ出し惜しみしている。

 何より残念なのが、どれだけ描写を尽したところで、4人の演奏の凄さが文章では伝わらないことである…。解説では演奏描写を絶賛している。ジャズに通じていなければこうは書けないのだろうが、ジャズに通じていない僕にはその凄さが想像すらできなかった。比嘉が次々とドラムのスティックを折るのは苦笑したが。

 今月刊行予定の第2作では、国際テロリストが登場だ。乞うご期待!



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