今野 敏 PQ-07


怒りの超人戦線


2011/11/22

 『奏者水滸伝 北の最終決戦』と改題されたシリーズ完結編。米国進出は大成功、ライブ盤も大評判となった4人。殺到する演奏依頼に、いつまでも小さなライブハウスでしか演奏しないとは言えなくなっていた。そして初の国内ツアーが組まれる。

 ツアーの開催地は、古丹の故郷である北海道に決定。函館に始まり、札幌、稚内と各地で熱烈な歓迎を受ける4人。ところが、ツアーの途中で、彼らは利用されていたことを知った。遠田は打ち切りを主張する。ところが古丹は…。

 支障がない程度に書くと、本作のテーマは原発問題である。初版刊行はチェルノブイリ原発事故から約3年後。そして、北海道電力初の原発である泊原発の運転開始目前だった。作中で語られるチェルノブイリ原発事故の影響を、当時は他人事のように流していたことを告白しなければならない。福島原発の事故など想像もしていなかった。

 しかし、その想像もしていなかった事故が現実のものとなった。今野敏さんの先見の明と言ってしまうのは皮肉に過ぎるだろう。本作の刊行時期がずれ込んだことと、福島原発の事故は無関係ではあるまい。現在も影響は拡大の一途をたどっている。

 4人がツアー中に、北海道で極秘計画が実行に移されようとしていた。政府や東電の対応を見るにつけ、あながち冗談とも思えず、嫌な気分になってくる。警視庁公安部特命班の赤城警部は、その極秘計画に絡む輸送の警備を命じられていた。

 一方、極秘計画を知った4人は怒り心頭。特に古丹は暴走しかねない。度々手を組んできた赤城警部と4人が、初めて敵対するという構図が注目される。結末やいかに…。格闘シーンは割と呆気なかったが、テーマがテーマだけに敵方が憎い。唾棄すべきやり口といい、小説の中の敵に、これほどまでに憎悪を抱いたことはなかったと思う。

 『特殊防諜班』シリーズとは違い、基本的に1巻完結だった『奏者水滸伝』シリーズ。続けようと思えば続けられたと思うし、もったいない気もするが、4人がその力の全貌を見せず、余力を残して終わるのも一興だろう。結局、木喰は何者だったのだ?



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