今野 敏 SC-02


ヘッドライン


2013/05/06

 シリーズ第1作に当たる短編集『スクープですよ!』を読んだ感想は、布施という男がわからないという点に尽きる。何しろ作中の人物たちにもわかっていない。

 TBNテレビ『ニュース・イレブン』遊軍記者として、何度もスクープをものにしてきた布施京一。デスクの鳩村は、素行が悪い布施を快く思っていなかったが、実績は認めないわけにはいかない。その布施が、未解決の猟奇殺人事件を追っているという。

 一方、警視庁捜査一課第二係の黒田も、未解決事件の捜査に当たっていた。その事件というのが、まさに布施が追っている猟奇殺人事件なのだった。最初からご都合主義な設定だが、鳩村と黒田がどうしたかというと…。

 鳩村は、布施の取材の秘訣を知ろうと、ある日布施の夜遊びに同行する。夜遊びといっても軽く飲むだけ。外国人が集まる店に溶け込む布施。鳩村が問い質しても、飲んでいるだけとの返事。結局何もわからない鳩村であった…。

 そして、藁をも掴む思いの黒田も、これまた布施の夜遊びに同行する。もはや警察の面子も何もあったものではない。布施は六本木の危険なエリアに入っていくが、刑事の黒田がびびるような局面でも平然としている。布施の人脈、一体何なんだ!!!

 刑事と記者がタッグを組む…というより刑事が記者に頼るというのも前代未聞だが、何より気になるのは、布施がいなければ発覚しなかったということ。誰も気に留めない異変に、布施だけが気づいていた。警察がこの体たらくで、六本木の治安は守られるのか…。

 黒田が恥も外聞も捨てた一方、石橋を叩いて渡るタイプの鳩村も、勝負に出た。下手すると鳩村のクビ程度では済まない。現実にこんなことをする局はないだろう。既に色々と現実にはあり得ないことだらけなので、些細なことでしかないが。

 東都新聞の持田記者の功績も認めてあげてもいいだろう。布施と違い、黒田に邪険に扱われて気の毒だが…。結局、布施という男がまったくわからなかった。



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