今野 敏 SJ-01

新人類戦線

“失われた十支族”禁断の系譜

2009/10/12

 本作は2008年12月に『特殊防諜班 連続誘拐』というタイトルで講談社文庫から復刊されたが、実に4度目の改題にしてオリジナルからかけ離れたタイトルになってしまった。警察小説を連想させるが、内容は長編伝奇アクションとでも言うべきか。

 極めて優秀だが協調性に乏しい、陸上自衛隊の一等陸尉・真田武男。首相直轄の特殊防諜班に抜擢(?)された彼の最初の任務は、新興宗教教祖の連続誘拐事件を探ること。事件の周辺には、イスラエルの諜報機関・モサドの影がちらつく。

 世界史に疎い僕は、紀元前722年に歴史から消えた「イスラエルの失われた十支族」のことは知らなかった。十支族の行方については諸説あるが、本作は彼らの一部が日本にまで渡来したという説に基づいている。真田と組むモサドのヨサレ・ザミルによれば、日本古来の文化や風習と信じられているものの多くは、古代ユダヤのものだという…。

 ザミルの熱弁にはただポカンとするしかない。そして敵の目的とは。……。深く考えてはいけない。単純にアクション・エンターテイメントとして楽しむべし。本作の初版刊行が1986年というのも驚かされる。時代が今野敏に追いついていなかったのだ。

 東西冷戦の終結により、国際謀略を扱ったいわゆるスパイ小説の多くは、陳腐化の憂き目に遭った。しかし、イスラエルを巡る情勢だけは現在でも解決の兆しすら見えない。その事実が、本作の鮮度を保っているのは何たる皮肉か。普段は中東情勢のニュースを聞き流す僕だが、本作を読んで他人事とは思えなくなったかも?

 真田とザミル、そしてもう2人の重要人物が、どのような経緯で出会い、共闘することになったのか。もう2人の重要人物はシリーズのレギュラーなのだが、素性を明かすのはネタばれになるので悩ましい。その2人もまた戦士とだけ言っておこう。

 本作単独で読んでも説明不足が目立つが、このシリーズは全7巻に及ぶため、本作はほんのイントロダクションに過ぎないようだ。付き合ってみましょうか。



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