今野 敏 SJ-06 | ||
黒い翼の侵入者 |
シリーズも残すところあと2作。『特殊防諜班 聖域炎上』と改題されたタイトルを見て、まさかあの場所が…という展開を想像したのだが。
本作は、『黒い翼の侵入者』という初版のタイトルがすべてを物語る。前作までに描かれた戦闘シーンは、銃器も使用されるとはいえ、基本的には人間対人間の接近戦であった。ところが、今回は人間の力だけではどうしようもない。
都心の10階建てビルの上3階が吹っ飛ばされる、派手なオープニングに度肝を抜かれる。本作の初版刊行は、あの9.11の12年前。当時の読者には絵空事に感じられたかもしれないが、幸か不幸か現在の方がリアリティがある。自衛隊のレーダーが捉えた奇妙な飛行パターンから、ある特異な航空機が浮かび上がる。
このような航空機が存在することは聞いたことがあったが、フォークランド紛争に実戦投入され、成果を挙げていたことまでは知らなかった。紛争の記憶も新しい当時に、作品に取り入れる先見性はさすが今野敏。その面白さは錆び付いていない。
構図は極めて単純。敵機の標的は、真田、ザミル、老人と少女にとっての聖地。逃げれば一般市民を巻き込むことになる。4人は聖地に留まり、機動力に優れた強敵を迎え討たなければならない。ただし、実際に相手をするのは自衛隊である。
彼らには、自衛隊を凌ぐ強力装備が1つだけある。それを駆使して、己の肉体を武器に戦ってきた真田たちは参謀に回り、自衛隊に指示を送る。これまでも緊急措置令下で自衛隊をこき使ってきた真田だが、今回の酷使ぶりはすごい。
真田たちの見せ場が少ない点は否めないものの、クライマックスの大空中戦がどのように決着するのか、終盤に近づくほどページを捲る手が止まらなくなる。むう、ここまでシリーズを追ってきて、この結末は予測できなかった。
支障がない程度に一言。男だねえ。いや、支障があるか。あったらごめんなさい。