今野 敏 ST-01


ST 警視庁科学特捜班


2008/10/11

 警察小説の書き手として近年注目を集める今野敏さんだが、息の長いシリーズの一つが、本作から始まる『ST 警視庁科学特捜班』シリーズである。

 ホステスとして働く中国人女性が部屋で惨殺され、新設された警視庁科学特捜班、通称ST(Scientific Taskforce)が召集される。気のない態度を見せるSTの5人に、奇異の視線を向ける刑事たちと、板挟みになって苦悩する橋渡し役の百合根警部。

 STのメンバーを簡単に紹介しておく。男の色気を漂わせるが、女性恐怖症の法医学担当赤城左門。嗅覚が異様に発達し、武道の達人でもある第一化学担当黒崎勇治。美貌の持ち主だが、潔癖症の裏返しで秩序恐怖症に陥った、文書鑑定からプロファイリングをこなす青山翔。紅一点にしてグラマラス・ボディ、聴覚がずば抜けた物理担当結城翠。現役の僧侶でもあり、時には僧衣のまま現場に現れる、第ニ化学担当山吹才蔵。

 科学捜査研究所に籍を置くSTメンバーの立場は一般職であり、警察官ではない点に注意したい。縁の下の力持ちである彼らに、捜査方針に口を挟む権限はない。だが、第二の殺人が起き、マフィア同士の抗争説が捜査陣の大勢を占める中、青山だけは違和感を感じていた。青山は叩き上げの菊川警部補とある賭けをする。

 青山がようやく自らのプロファイリングを披露するのは終盤になってから。『羊たちの沈黙』以降、日本でもプロファイリングという技法が広く知られるようになったが、彼はプロファイリングが決して万能ではないこともわかっている。だから慎重に慎重を期した。

 本作は、STの5人を読者に印象づける、シリーズのプロローグ的意味合いが大きいと言える。敢えて殊勲者を挙げるなら青山だが、5人全員にそれぞれの特技を生かした見せ場が用意されている。最後には刑事たちもSTの力量を認めるのだった。

 エンターテイメントとして、プロローグとして実に周到。黒幕の人物に捜査の手が及ぶことなく本作は終わる。日本の警察を小手調べしたのか。5人それぞれにスポットを当てた作品もあるようだ。これは続きを読まないわけにはいかないだろう。



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