今野 敏 ST-05

ST 警視庁科学特捜班

赤の調査ファイル

2009/02/15

 STシリーズ第5作にして、メンバー5人それぞれにスポットを当てた通称「色」シリーズの第2弾。余談だが、『青』から読まなかったのは、書店になかったからである。

 京和大学医学部病院に搬送された男が急死した。妻は医療ミスを訴えたが、民事訴訟で敗訴する。STのリーダーにして法医学担当の赤城左門は、その訴訟のカンファレンスに専門医として呼ばれていたのだ。判決の翌日、遺族側は刑事告訴に踏み切る。

 既に明かされている通り、赤城は医師免許を持つれっきとした医師である。しかも、京和大学医学部の出身だ。研修医時代の苦い記憶と対峙することになる赤城。それは同時に、医局のトップである大越教授を始め、因縁深い人間たちとの対決でもあった。

 スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)という聞き慣れない病名が出てくるものの、専門知識の比重は低く、基本は人間ドラマと考えていい。医局というピラミッド内で絡み合う思惑。大学病院とは何てひどいところなんだと、多くの読者が思うだろう。誇張を感じる点もあるものの、赤城に感情移入させることに成功している。

 ひどいといえば、今回STと組む品川署の壕元も負けていない。35歳で巡査長の壕元は、誰かを攻撃せずにはいられない。案の定キャリアの百合根に噛みつく。しかし、こういう人物はいそうだし、僕自身に壕元のような側面はある。ある意味、キーパーソンである。

 実際の医療訴訟とは、多くの場合医療ミスの隠蔽が問題になる。本作でも指摘している通り、医療ミス自体は罪に問われない。起訴に持ち込めるのか? むう、まさかこんな形での逮捕とは。しかし、赤城に達成感はない。STとしてではなく、医師として許せない。

 近年、医療ミステリの分野は海堂尊さんの一人勝ちだが、本作の方が作風がより硬派と言える。読み比べてみるのも面白い。白鳥とは対照的な、赤城の人望の深さ。どうしてSTのリーダーは赤城なのか。きっちりサポートする他のメンバーの存在も見逃せない。



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