今野 敏 ST-09 | ||
ST 為朝伝説殺人ファイル |
警視庁科学特捜班 |
STシリーズ第3期のスタートに当たる本作だが…伊豆大島、奄美大島、加計呂麻島、沖縄とSTメンバーが飛び回る割には、何とも地味な内容である。
伊豆大島、そして奄美大島に隣接した加計呂麻島で、ダイビング中の死亡事故が発生。いずれも源為朝伝説縁の地であったことから、ワイドショー番組が取り上げ、沖縄や御蔵島など他の為朝伝説の地へも取材班を派遣する。ところが、沖縄・今帰仁村の運天港でスタッフが死亡した。これは為朝の呪い≠ネのか?
頼朝や義経の叔父に当たるという為朝の伝説も、為朝伝説を基にしたという滝沢馬琴作『椿説弓張月』も、僕はほとんど知らない。義経北行伝説と似たようなものか? そういえば実家の近所にも、「伝説義経北行コース」という看板があるが…。
題材がややマイナーなことはともかく、ダイビングの事故と為朝伝説を結びつけるというテレビ局の発想は不謹慎な上にこじつけもいいところ。作り話ながら、こんな企画がよく通ったものだと思うが、本作刊行当時はテレビ局の懐事情も余裕があったのか。
意外と反響があったことから警察が動く事態になる。それにしても、捜査員を動かすわけにはいかないからSTが行け、というのもひどい話である。案の定、STの士気は上がらない。事故現場に赴き、ダイビングショップの関係者や医師から聴取するものの、何だか旅番組を見ているような気分になってくる。温泉に入るシーンもあるし…。
最後の最後にようやく事件らしくなってくるものの、STが動くほどの事案だったんだろうか、というのが正直な感想である。STメンバーはそれぞれの仕事はしたものの、このシリーズらしいワクワク感がなかったのは残念。そもそもネタとして苦しかった点は否めない。閉所恐怖症の翠は、小型のプロペラ機に乗せられてお気の毒。
第3期に入ってから、2007年12月の『桃太郎伝説殺人ファイル』以降、なかなか新刊が出ない。「伝説の旅」という括りはやっぱり苦しいんじゃないか。