今野 敏 ST-11

ST 沖ノ島伝説殺人ファイル

警視庁科学特捜班

2010/11/26

 正直小ぶりな感がある、ST「伝説の旅」シリーズの3年ぶりの新刊である。今回もやっぱり小ぶりだが、ミステリーとしては画期的な構成を持つのだ。

 玄界灘の孤島・沖ノ島の港湾工事現場で、水死体が発見された。事故か殺人かの判断がつかず、STが出動を要請される。だが、なぜわざわざSTが呼ばれるのか?

 それには、この地域ならではの特殊な事情があった。現場の沖ノ島は、宗像大社の管轄下にあり、島そのものがご神体だという。基本的に、神官以外の上陸は禁止されており、警察といえども上陸には社務所の許可が必要になる。

 さらには、島で見聞きしたことを口外してはならない『御言わず様』信仰が、捜査陣に立ちはだかる。その因習を頑なに守り、地元の関係者は一様に口を閉ざす。ついでに、草木の一本すら持ち出し厳禁なので、鑑識は仕事にならない。

 というわけで、STが福岡に到着した時点で、現場検証も事情聴取もろくにできていない。さらには、工事を請け負った建設会社にいる福岡県警OBの邪魔も入る。古い因習を一笑に付す読者もいるだろうが、田舎出身の僕にはわからないこともない。警察としても、地域社会の因習を無視はできない。そこで、STに打開が期待されているのだ。

 過去2作と比較すると、伝説に関する蘊蓄が少ないのも特徴である。詭弁を弄して、いかに関係者の口を割らせるかがポイント。ようやく引き出した証言のわずかな齟齬から、現場の様子を再現していく。前作同様、今回も青山が冴えに冴える。そして、信仰を理解する上で、僧籍を持つ山吹の存在も忘れてはならない。

 ようやく社務所から上陸を許可されたのは、事件解決後であった…。STが現場詣でをすることなく終わるという、前代未聞の警察小説だ。やってくれるぜ、警察小説の雄・今野敏。最後の意外な援護射撃はやや予定調和っぽいが、全体的には満足満足。ただ、「伝説の旅」の「旅」という部分では物足りないかもしれない。



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