今野 敏 U-02


アキハバラ


2012/11/08

 碓氷弘一シリーズ(というのが正式名称なのか知らないが…)の第2作に当たる。タイトル通り、舞台は秋葉原。しかし、警察小説なのかと問われると…。

 大学に入学して田舎から上京した青年は、憧れの秋葉原に降り立ち、深い感慨を覚えていた。ところが、都会に慣れていない彼は、あるパーツショップで万引きを疑われ、しどろもどろになってしまう。これがすべての発端だった…。

 そこに地上げを目論むヤクザがやって来た。この先は笑うしかない怒涛の展開である。中東某国の女性諜報部員、イスラエルのモサドの諜報部員、ロシアン・マフィア、在日の北朝鮮工作員…。豪華キャストが秋葉原の電気店で一堂に会するのだ。

 一言で言ってしまえばパニック小説…いや、ドタバタコメディか。彼女のいたずら心に、モサドがまんまと引っかかった。世界最強の諜報組織の一員とは思えない迂闊さ…。ロシアン・マフィアもロシアン・マフィアで、なぜこんな白昼堂々と…。歴戦の猛者たちの行動が、揃いも揃って突っ込みだらけとは何事か。昔気質なヤクザたちが何だか微笑ましい。

 飛んで火に入った青年を始め、巻き込まれた面々はただお気の毒。本気の銃撃戦が起き、笑い事ではない。半分以上過ぎてから、ようやく本庁捜査一課の碓氷が乗り込んできた。もっとも、碓氷は連絡役として呼ばれただけなのだが…。

 現場指揮官にお払い箱にされた碓氷は、秋葉原の裏人脈を駆使して打開を図る。クライマックスに至るともはや突っ込む気力もない。実際にはこんな申し出は突っぱねるだろうし、ここまで大暴れしてお咎めなしってことはないだろうよ。でもどうでもよくなってきた。硬派な警察小説をご所望ならお薦めしないが、面白ければいいじゃなーい。

 本作の初版刊行当時とは様変わりし、現在の秋葉原は電脳街ではなく「萌え」の街だ。作中に出てくるラジオ会館は取り壊され、建て替えが進んでいる。ゲンさんたちは今どこにいるのか。ここに描かれたのは、古き良き時代の秋葉原だ。



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