倉知 淳 01


日曜の夜は出たくない


2005/09/20

 競作作品集『五十円玉二十枚の謎』に佐々木淳名義で収録された回答が、倉知淳さんのデビュー作である。現在もレギュラーキャラクターとして活躍中の、猫丸先輩の初登場作品でもあった。猫丸先輩シリーズをまとめた本作が、実質的なデビュー作と言っていい。

 何とも人を食った猫丸という人。定職には就かず、あちらへこちらへと神出鬼没。それでいて好奇心旺盛で、首を突っ込みたがる。しかし、小柄な身体に黒いだぼだぼの上着、長い前髪が眉の下まで垂れ、童顔で年齢不詳という外見に惑わされてはいけない。

 まずは一本目、「空中散歩者の最期」。不可解な転落事故に猫丸先輩が示した答えとは。計算上成り立つかもしれないが、そううまくいくか? 猫丸先輩の優しさが光る「約束」。大人は何でも「子供のくせに」と逃げてしまいがち。猫丸先輩は少女の目線で語りかける。ある地方に伝わる伝説に新たな解釈を示す「海に棲む河童」。その解釈自体は感心に値するが、方言で書かれた伝説の標準語訳の読みにくさはわざとですか?

 上演中の舞台で、衆人環視の中殺人が…「一六三人の目撃者」。毒殺にはこんな盲点があったか。短編だが、劇団内の悲喜こもごもをしっかり描き出した手腕がうまい。正直舞台が寄生虫館である理由がわからない「寄生虫館の殺人」。謎はまあいいんだけど…。

 NHKの受信料集金員が事件に遭遇する「生首幽霊」。猫丸先輩自ら現場へ飛ぶ…って、こんな凝ったことするか。関係ないが、支払い拒否続出の昨今、彼は苦労していることだろう。ラストに実に心憎い一編を配してきたな表題作「日曜の夜は出たくない」。彼女が恋人に抱く疑惑を、鮮やかに解いてみせる。猫丸先輩って本当はいい人…だよね?

 ざっと感想を述べてみたが、個々の作品では確かに猫丸先輩の思考が冴える。だが、シチュエーションから何からバラバラ。作品集としてはまとまりに欠けるし、デビュー作としてはとても地味な印象を受けた。と思っていたら…なるほど、ちゃあんと意図があったのだ。何だかしっくり来なかったのはそんな訳だったんだ。普通そこまで深読みするか…。

 解説で小野不由美さんも述べているが、ありそうでないオーソドックスな本格の作品集である。読者はその点を「ひねりがない」と評しがちだから、勝手だよねえ。面白いのに褒めるのは難しいとでも言おうか。本格好きならまあ読んでみてくださいな。



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