倉知 淳 03


占い師はお昼寝中


2005/10/05

 僕には霊感というものがない。学生時代、通学路だった有名心霊スポットを何度も夜中に通過したが、何も感じたことはない。ついでに占いも信じていない。某先生がテレビに映った瞬間チャンネルを変える。それでも雑誌の星占いをつい読んでしまうああ小市民。

 余談はさて置き、本作の探偵役は渋谷道玄坂の雑居ビルに「霊感占い所」を構える占い師である。助手の美衣子が呆れるほど、辰寅叔父は暇さえあれば寝てばかりいる。ところが、インチキなはずのご託宣は、いつでも真実を射抜いているのだった…。

 好奇心旺盛で神出鬼没な猫丸先輩とは対照的に、いわゆる安楽椅子探偵タイプである点が興味深い。行動力なら猫丸先輩がはるかに上だが、推理力なら負けてはいない。だから美衣子も、インチキの片棒を担ぐのが…いや、助手がやめられない。

 少しは家庭を顧みなさい「三度狐」。女性の社会進出が叫ばれる時代にこそ切ない「水溶霊」。わかってしまえば他愛もないが、若者らしくていいじゃない「写りたがりの幽霊」。団塊の世代は不器用だねえ「ゆきだるまロンド」。文字通り「占い師は外出中」の間に占いに挑む美衣子だったが…。見料の相場によっては占ってもらおうかな?

 最後の「壁抜け大入道」では、少年のけなげな訴えにぐうたら辰寅叔父が驚くべき行動力を発揮する。辰寅叔父はインチキ占い師だが、悪徳占い師ではないのである。

 「見えすぎるからこそ、辛いことだってあるんだよ」と辰寅叔父は言う。金儲けしようと思えばいくらでもできるし、大教祖様にもなれるだろう。しかしそうはしない。きっと辰寅叔父は、自らの力の大きさを自覚しているのだ。京極堂こと中禅寺秋彦のように。

 このシリーズは残念ながら本作一冊のみである。美衣子も読者も、辰寅叔父という魅力的で謎めいた人物の、ほんの一面をのぞいたに過ぎない。願わくは、猫丸先輩シリーズと共に継続してほしいシリーズだ。ねえ、倉知さん。



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