倉知 淳 04 | ||
星降り山荘の殺人 |
僕は本格ミステリの一ファンであるつもりだが、自分で謎を解こうなどと考えることはまずない。早く答えを知りたくて、どんどん読み進めてしまう。僕のような読者は、作家の側から見て果たしていい読者と言えるのだろうか?
倉知淳さんの長編作品を読むのは本作が初めてだ。短編集から入ってみて、オーソドックスで正攻法な本格の作家と認識したが、初の長編作品でその認識はより強固なものになった。舞台はおあつらえ向きの「雪に閉ざされた山荘」である。
加えて、集まった面々が実に怪しげ。自称UFO研究家の嵯峨島。そういえば矢追純一って何やってんだろ。ある意味でより怪しい肩書きを持つ、「スターウォッチャー」星園。ちょっとしたヨン様? 売れっ子作家の草吹あかね。やり手の不動産会社社長などなど。
交通は遮断され、電話も通じない状況下で起きる連続殺人。どうだ、この典型的な本格ミステリ的展開は。ひねりがない? 確かにそうかもしれないが、自信がなければ書けない設定だとは言えまいか。直球に自信があれば、変化球を投じる必要はないのである。
本格ミステリの読みどころは何か。乱暴に言ってしまうが、トリックとロジックが二本柱だろう。本作は派手な殺害トリックなど用いていない。ロジックの応酬だけで読ませる作品だ。これは難易度が高い。トリックが派手ならば、少々ロジックの詰めが甘くても補えるだろう。もちろん、トリックを思い付くのも一苦労だし、それが悪いと言うつもりはないが。
いわゆる「解決編」に当たる部分を、珍しく二回読んでみた。一回ではちゃんと理解できなかったからなのだが…二回目でわかってきた。見事なロジックだ。びっくり仰天ではなかったが、じわじわと「ああ、そうだったのか」と思えてくる。このじわじわ感がいいのだ。
解説によれば、倉知さんは「ミステリ外部の人が読んでも違和感がないということを大事にしたい」そうである。本作は硬派な本格だが、一見さんお断りの間口が狭い作品ではない。本格ファンはもちろん、本格はちょっと…という方にも読んでほしい。新しいファンを受け入れてこそ、そのジャンルは発展していくんだ。固定ファンだけではいずれ滅びる。