京極夏彦 01


姑獲鳥の夏


2000/05/13

 言わずと知れた、京極さんの衝撃のデビュー作。最初に読んだときは、正直に言ってあまり面白いとは思わなかった。例の賛否両論の密室トリックについても、納得できなかった。しかし、文庫版で再読したら面白くてたまらなかったから、不思議なものだ。

 戦後間もない、東京は雑司ヶ谷の医院に流れる奇怪な噂。二十箇月も身ごもったままの娘。密室から失踪したというその夫。この噂を、作家の関口巽が友人の京極堂こと中禅寺秋彦に持ち込んだことから、物語は始まる。

 冒頭からいきなり、古書店の主にして陰陽師(おんみょうじ)である京極堂の弁舌が全開する。延々と続く「人間の意識」に関する議論を乗り切れるかどうかで、「京極堂」シリーズにはまるかどうかが決まるだろう。この冒頭部分は、本作だけでなくシリーズ全体の根幹に関わってくる。

「この世には不思議なことなど何もないのだよ」

この京極堂の言葉は、彼のスタンスでもあり、シリーズのスタンスでもある。

 シリーズのハイライトである、京極堂の「憑き物落とし」はファンにはたまらない魅力だ。晴明桔梗を染め抜いた漆黒の着流しに身を包んだ陰陽師が、言葉の限りを尽くして、不可解な噂の真相を白日の下に晒す。そして、関口の「憑き物」が落ちる。ちなみに、〇〇児については手塚治虫さんの『ブラック・ジャック』で読んだ覚えがあったのでピンときた。

 関口は、足を引っ張っているようで実は本作の重要なキーパーソンだ。しかし、本作以降その存在は薄くなっていく…。他にも、超能力探偵の榎木津礼二郎、警視庁刑事の木場修太郎など、魅力溢れるキャラクターが目白押しである。このシリーズは、キャラ読みするファンがとても多い。

 それにしても、この頃の京極堂はずいぶん丸かったなあと思うのは僕だけか? 



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