京極夏彦 14

ルー=ガルー

忌避すべき狼

2001/07/09

 本作の執筆に当たり、雑誌「アニメージュ」誌上などで近未来社会の設定を募集するという企画が1998年にスタートした。「ダ・ヴィンチ」1999年11月号のインタビューでは、「それほど間を空けずに出せる」と語っていたのだが…。

 その後、一向に刊行される気配がなく、もしや刊行中止か? と一時は本気で疑ったほどである。募集開始から3年が経過した2001年6月、ようやく刊行の運びとなった。

 読み終えてみて、ここまで刊行がずれ込んだのも無理はないかと思った。700件以上寄せられたというアイデアを取捨選択し、なおかつ物語として構成しなければならない。京極さんの作家手法からして、プロットの構築にかなりの時間を割いただろう。

 21世紀半ばの日本は、徹底して規格化されていた。清潔かつ無機質な都市。学校というものが廃止され、端末のモニタの中に日常がある世界。この時代の子供たちにとって、実際に人と会うこと―リアルコンタクト―はむしろ異例だ。そんな世界で起きた、14〜15歳の少女だけを狙った連続殺人事件。少女たちは覚醒、決起した…。

 ここまで極端ではないにしろ、現代社会にも似たような状況が見受けられるし、目新しさはない。薄ら寒さを覚えはするが、こういう時代が来てもおかしくはない気がする。事実、既に実現したことさえある。例えば、i-modeが爆発的に普及することを誰が予想できただろう。逆に、そうした急速な時代の流れが刊行を遅らせたのか。

 何はともあれ、こうして従来の「妖怪」ものとは一線を画した作品が完成した…かといえば、実はそんなことはない。読者のアイデアを盛り込みつつ、京極作品のアイデンティティーは失われていない。キャラクターも含め、すべては根幹となる謎を際立たせる舞台装置だった。京極堂シリーズそのものの手法が、ここにある。

 厚さの割にはすぐに読める。良質なエンターテイメントとして楽しみましょう。しかし、やっぱり京極堂シリーズに慣れていないと辛いかなあ。毎度ながら、『陰摩羅鬼の瑕』を早く出してください、京極さん。



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