京極夏彦 18


後巷説百物語


2003/12/28

 「のちのこうせつひゃくものがたり」と読む。シリーズ最新作は、なぜか時代が維新後の明治十年。それというのには訳がある。

 東京警視庁一等巡査の矢作剣之進が関わる不思議な事件の数々。腐れ縁の面々たちとの議論(?)の末、結局行き着く先は九十九庵。

 この九十九庵に隠居する、齢八十幾つの一白翁なる老人こそ、考物(かんがえもの)の百介その人である。かつて、不思議を求めて諸国を巡り、御行の又市らとともに数多の不思議な事件に関わってきた百介。そんな彼だったが、北林藩の事件から六年後、江戸を出ることはなくなった。やがて時代は変わる。

 矢作一等巡査らが持ち込む難題に対し、一白翁は豊富な記録の中からヒントとなるような体験を語る。そしてなぜだか事件は解決し、矢作一等巡査の手柄となってしまうところがミソ。又市たちは回想の中にしか登場しないのである。

 という訳で、本作に限っては主人公は一白翁こと百介と言っていい。一白翁は又市らの名を出すときもあれば、核心となる部分を伏せるときもある。それでいて示唆を与える絶妙なさじ加減は、稀有な人生経験の賜物か。一白翁は、未だに又市を忘れられない。明治の世まで引きずって生きてきた。

 矢作たちのド突き漫才(?)という前座もあるせいか、あまり重い印象はない。趣向がこれまでと異なる中、唯一前作までの香りを感じるのは「赤えいの魚」だ。舞台といい、内容といい、オープニングから凄いインパクト。おかげで、その後の話がやや小粒に思えてしまう。とはいえ、やはり京極さんの、いや一白翁の語り口は惹き込ませてくれる。

 シリーズの原点に帰ったと言うべき最後のエピソード「風の神」で、本当の本当に完結である。京極堂シリーズに並ぶこのシリーズの完結は寂しい。

――御行奉為。



2004/10/31追記

 また嘘でした。『前(さきの)巷説百物語』の連載が開始されています。又一たちの若かりし頃を描くそうです。もう完結とは書きません、はい…。



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