京極夏彦 36


豆富小僧


2011/04/14

 児童書のレーベルである角川つばさ文庫から刊行された本作は、れっきとした京極夏彦さんの新刊である。25日に角川文庫から刊行される、本作も収録した『豆腐小僧その他』を待とうかと思ったのだが、結局児童書の棚を物色したのだった。

 豆富小僧(豆腐小僧ではない)の活躍の舞台は、何と現代。山の中の村にある廃屋を訪れた妖怪好きの少年・淳史。彼が「妖怪がいるといいなあ」と思った瞬間、豆富小僧は現代に招聘されたのだった。もちろんお馴染みの連中も。

 妖怪とは概念であり、その主体は知覚する人間にある。妖怪自身が主体的に動くことはない。過去2作でしつこいくらい聞かされたルールは、児童書であっても有効である。噛み砕いて説明しているが、京極さんの筋を通す姿勢が感じられる。

 当然ながら、ストーリーや人物の相関関係はシンプル。大人の読者には物足りないかもしれない。でもね、このシリーズはこのくらいの長さに抑えた方がいいのかもしれない。過去2作がボリュームがあっただけに、なおさらそう思う。

 あまり大人視点で突っ込むべきではないと思うが、これだけは突っ込ませて。豆富小僧が何でこんなに美形なのさっ!!!!! それはともかく、過去2作では活躍しているとは言い難い豆腐小僧だが、本作では豆富小僧は主人公らしい活躍を見せる。人間も妖怪もやはりぐちゃぐちゃになるのだが…何だよその無理矢理なまとめ方。

 過去2作で固く遵守されてきたルール…というより暗黙の了解が、本作では破られている。幕末でも現代でも、やはり謎多き豆富小僧なのであった。本来の読者である小学生の感想やいかに。大人はケチばかりつけるからいかんね。

 なお、29日公開の3Dアニメ『豆富小僧』の原作は『豆腐小僧双六道中ふりだし』です。



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