京極夏彦 41 | ||
眩談 |
京極夏彦さんの新刊は、あのシリーズである。怪談専門誌「幽」発のこのシリーズも、とうとう3作目。読み応え、満足度はこれまでで最も高いと言える。怪談としての語り口がこなれてきた印象がある。って、偉そうですみません。
「便所の神様」。大ヒット曲「トイレの神様」とは何の関係もありません。行ったことがある人ならわかると思うが、田舎の古い民家ってこんな感じだよねえ。今じゃすっかり水洗で洋式のトイレでなければ無理。「歪み観音」。そのまんまとしか言いようがありません。CGで簡単に映像化できそうだが。ジャンル的にはサイコサスペンス…か?
「見世物姥」。舞台は長い冬に閉ざされる村。祭は数少ない田舎の楽しみ。子供の頃、いわゆる見世物小屋を見に行く勇気はなかった…。「もくちゃん」。こういう人はどこにでもいただろうし、子供の頃には指差して馬鹿にしていた。今頃になって、悪いことをしたと反省しても遅いが。怪談というより社会派作品かもと思ったら、最後に…。
本作の一押し「シリミズさん」。仕事を辞めて秩父の実家に帰ってきた女性。そしてシリミズさんの世話を命じられた。どう考えてもこの家には何かいるが、コワくはないがキモチワルイ、この微妙な感覚がたまらない。「杜鵑乃湯」。旅館やホテルは怪談の舞台として定番だが…どうしてこんな温泉旅館を選んでしまったのか。
最後の2編は対照的。「けしに坂」。父とのわだかまりを抱えたまま迎えた十三回忌。坂を上り、思い出したこととは。親の心、子知らず…かと思ったら、おいおい。「むかし塚」。そこはむかしを埋めるところだという。彼が埋めたむかしとは。いい思い出だけ記憶に残し、嫌な過去は忘れ去れたら、どんなにいいだろうねえ。
過去2作もそうだったが、怖さというより生理的、心理的な嫌さを追求した全8編。絡みつくようなねっとり感が、ここまで極められた。そもそも、初期の京極堂シリーズってこういう空気ではなかったか。今ではすっかり人物ありきのエンタメ路線になってしまったが。そういう点では原点回帰とも受け取れる作品集だ。