京極夏彦 42


書楼弔堂 破暁


2013/12/14

 新シリーズだそうである。書店シリーズと称するらしいのだが…。

 明治二十年代の半ば、雑木林と荒れ地ばかりの東京の外れに住み、日々無為に過ごしていた高遠。趣味らしい趣味といえば読書くらい。そんな彼が、異様な書舗の存在を教えてもらう。その名も「書楼弔堂(しょろうとむらいどう」。

 書店といえば、古書店主が圧倒的存在感を放つあのシリーズを思い浮かべないわけにはいかない。弔堂の店主はあの男ほどとっつきにくくはないし、高遠はあの男ほど鬱ではないが、やはり設定上の共通点は意識せざるを得ない。

 高遠の役割はいわば案内人である。最初の客こそ自ら弔堂を訪れたが、その後は縁あって高遠が客を弔堂に導く。この客が、実在の有名人であることが各編最後にわかる。店主は迷える彼らを諭し、悩みを取り除くのだ。そしてこう言う。

 「さて、あなた様は―どのような本をご所望ですか」

 最初のエピソードで蝋燭を1本1本消していったときは、何が始まるのだと期待したが…あのシリーズのような派手な演出があるわけではない。店主の言葉は平易であり、そういう点は地味に映るかもしれない。しかし、店主の書店論には是非注目したい。

 なぜ「弔堂」などと名乗るのか? 主人曰く、ここは墓場。相応しい読者と書物を引き合わせることが供養であり、本は成仏する。なるほどと頷きつつ、僕は生涯の一冊に出会えるだろうかと考える。深く読み込むこともなく、右から左へ流していく。

 僕自身、読み終えた本は愛おしいし、手元に置いておきたいと思う。しかし、あまりに増えすぎて一部は売却した。「自炊」をする人もいるそうだが、本を破壊するくらいなら売って誰かに読んでもらった方がいいと思う。手放した本たちが成仏することを願って。

 それにしても、最後の客はやはり…。



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