万城目 学 06


かのこちゃんとマドレ―ヌ夫人


2010/02/16

 京都・奈良・大阪三部作を完結させた万城目学さんの新刊は、ちくまプリマー新書という耳慣れないレーベルから刊行されたため、すっかり見落としていた。

 今回は三部作のような壮大な設定はない。主人公は小学1年生の女の子、かのこちゃん。猫のマドレーヌ、老犬の玄三郎、そして同級生のすずちゃん。愉快な仲間たちとの交流を描く。ミステリー的要素はない。日常系ファンタジーとでも言えばいいだろうか。

 実を言うと、裏表紙の紹介文からほのぼのした話かと思い、あまり期待せずに読み始めた。ほのぼのしているには違いないが、そこは万城目学。子供も楽しめると同時に、大人も唸らせる作品に仕上がっている。やはりこの想像力は侮れない。

 猫たちが集い話し合っているプロローグ。そこにはかのこちゃんの家のマドレーヌもいる。仲間の猫たちはマドレーヌ夫人と呼ぶ。猫たちは人間の言葉を解する。

 かのこちゃんとすずちゃんの出会いを描く第一章。二人の友情が生まれた理由は…ぎゃはははははは。最初にこんなネタを炸裂させるとは、さすが万城目さん。苦笑いをしつつ、一気に惹き込まれた。最近の親はこういうのに目くじらを立てそうだが…。

 マドレーヌ夫人が語り部になる第二章。マドレーヌなんて高貴な名前がついているが、アカトラである。命名の由来は菓子のマドレーヌに色が似ているから。そんなマドレーヌ夫人が経験した大冒険とは。嗚呼、種を越えた愛だねえ。

 かのこちゃんの周辺で色々動きがある第三章。これもまた、成長のステップだとだけ書いておこう。マドレーヌ夫人がある決意をする第四章は、第二章、第三章と密接な繋がりがある。かのこちゃんは真相を知らない。でも、それでいいのだ。

 強烈な第一章で評価が割れる可能性もある。だが、第一章で眉をひそめた人も、自分の子供時代を思い出すといい。こういうネタ好きだったでしょ?



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