道尾秀介 08 | ||
カラスの親指 |
by rule of CROW's thumb |
読者を煙に巻く「騙し」のテクニックに長けた道尾秀介さんだが、最新刊は満を持して(?)「詐欺」を生業とする人間たちが主人公である。どちらかといえばダークな作風の道尾秀介さんだが、最新刊も設定からしてダークに思われた。
詐欺師稼業でコンビを組む中年男、武沢竹夫と入川鉄巳。お互いをタケさん、テツさんと呼ぶ二人には、闇金融に絡む暗い過去があった。特に武沢は、自らの告発で闇金融組織を壊滅に追い込んだのだが…これ以上は書かないでおく。
そんな二人の生活にひょんなことから舞い込んだ少女。同居人はさらに増え、奇妙な共同生活が始まるのだが、武沢は自分の過去と少女との関係を知り打ちのめされる。さらには、かつて武沢が壊滅させた組織の影が、共同生活を送る彼らに忍び寄る…。
中盤までで感じた印象は、とにかく「謎」の要素が少ないことである。登場人物の過去を伏せておくのはミステリーの常套手段だが、武沢やテツさんたち同居人の過去は序盤で包み隠さず明かされている。武沢が闇金融に手を出した理由など、あまりにもお約束のコースで呆れてしまう。現在のように法整備が進んでいない時代とはいえ。
敢えて「謎」と言えなくもないのは、組織が武沢をつけ狙う理由か。過去の恨みにしてはとどめは刺さない。精神的にじわじわといたぶる。ただ遊びたいだけなのか。
武沢たちはとうとう組織との対決を決意する。暴力では太刀打ちできない。そこで知恵と度胸で勝負する。どんな計画を立てたのかは読んでください。緻密さの反面、敵の本丸に正面から突入したり、無謀というか命知らずというか。過去と決別したい強い意志がエネルギーになり、恐怖心を克服させたのだろうか。「謎」はなくてもハラハラさせられる。
そして結末は…やはり道尾秀介は一筋縄ではいかないとだけ言っておこう。道尾秀介はミステリー作家であり、本作もミステリーなのだった。こんなのありかと読み終えて一瞬思ったが、すぐに愉快な気持ちに変わった。従来のダークな作風を好む読者には不満が残るかもしれないが、逆に敬遠していた読者にはお薦めしたい。