道尾秀介 10


龍神の雨


2009/05/31

 5/23放送のTBS系『王様のブランチ』に道尾秀介さんが登場し、トリックはあくまで物語や人物の感情を伝えるための手段であるというスタンスについて語っていた。時にトリッキーに過ぎると感じないこともない道尾秀介作品だが、最新刊『龍神の雨』は、道尾流ミステリーのスタンスが最も如実に表れた作品と言えるだろう。

 2組の家族は、よく似た事情を抱え、複雑な家庭環境に置かれていた。だが、未曾有の台風による大雨が、接点のない2組の家族を結びつけ、運命を狂わせた。

 両親の一方が亡くなり、その後再婚をする。子供たちは血の繋がらない親にどういう心情を抱くのか。僕には想像ができない。だが、さらに血の繋がった親の方が亡くなり、血の繋がらない親だけが残るというシチュエーションはさすがに異例に思える。

 雨さえ降らなければ…。あらゆる悪い偶然が重なり、追い込まれていく凛と楓の兄妹。だが、道尾秀介はこの程度の仕打ちで許してはくれない。道尾秀介はこうも言った。至近距離ギリギリまで近づいて切りつけた方が、絶対に致命傷を負わせられる。

 もう1組の兄弟の兄、辰也はあまりに屈折している。弟の圭介には、辰也は義理の母を困らせようとしているようにしか見えない。小学生の圭介は、中学生の辰也に逆らえない。だからこそ、辰也の心情を読み取ることは、最後までできないだろう。

 後悔先に立たず。支障がない程度に本作の印象を述べると、この言葉に集約される。2組の兄弟が見ていた義理の親の顔。血を分けた兄弟の顔。顔・顔・顔。その顔がすべてだったのか。兄弟の中で、読者の中で疑念は膨らんでいく。だが、疑念を抱いた時点で、もう手遅れなのだ。この物語に救いがないことは、序盤から決まっている。

 手頃なページ数に、道尾流の騙しをたっぷりと凝縮している。道尾作品に限らず、何度も味わわされたはずなのに、やはり見抜けなかったし、読者を飽きさせることはない。トリックありきではなく、道尾秀介の目的はあくまで読者を切りつけることにある。

 だが道尾さん、残念ながら、僕は満足感に快哉を叫んだよ。



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