道尾秀介 12


球体の蛇


2009/11/28

 帯曰く、「魂を揺さぶる、最新最高到達点」というのは大げさだろう。しかし、本作に従来の道尾秀介作品からの変化が感じられるのは確かである。

 17歳だった友彦は、両親の離婚と父の東京転勤により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さん、娘のナオとの3人暮らし。奥さんとナオの姉サヨは、7年前のキャンプでの火災が原因で亡くなっていた。サヨが死んだ本当の理由は、誰にも言えない…。

 友彦が語る自叙伝に、ミステリー的要素がないわけではない。しかし、道尾作品の代名詞とも言える、過剰なまでに何重にも絡み合った騙しの構造は、本作には見られない。おそらく意識的に、極力騙しの要素を廃している。その点を物足りないと感じるか、新機軸と評価すべきか。純文学の棚に並べても違和感がないかもしれない。

 友彦は乙太郎さんの仕事を手伝っており、それがきっかけで彼女に出会った。そして、友彦は毎夜のように…。序盤から屈折した展開に、引いてしまった。〇〇〇〇〇の群れにめげない友彦の根性にはある意味脱帽するよ…。青春の1ページにしては悪趣味すぎませんか、道尾さん。以降は友彦に共感できないまま読み進めることになる。

 共感できないのは友彦だけではない。別居している母と父。幼い頃に残酷な顔を見せたサヨ。そんなサヨの死後も、面影を追い続ける友彦。乙太郎さんだけはまともかと思ったら…。友彦の彼女への思いは、そしてナオの友彦への思いは、愛と呼べるのか。

 やがて友彦は東京の大学に入学し、橋塚家を離れる。冗談のような名前の隣人が登場し、どんな展開になるのかと思ったら…結局きっかけを(口実と言った方がいいか)探してうじうじしていたわけか。しかし、僕に友彦を責めることはできない。こういう引きずる心理は男性読者ならわかるだろう。僕が唯一友彦に共感できた点と言える。

 結局何が真実だったのか? その疑問に、きっと大した意味はない。本作の最大の謎は、人間の心情だ。人間の心情にただ一つの解はないのだから。読み終えて思ったが、なるほど装丁はよくできている。内容は…装丁ほどではないかな。



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