道尾秀介 13


光媒の花


2010/04/11

 最初にお断りしておきたい。本作を読む予定があるなら、大したことなど書いていない以下の拙文は読み飛ばし、まっさらな状態で読んでほしい。

 本作は、全六章が何らかの繋がりを持つ。話自体はそれぞれ完結しているが、ある章の脇役が続く章では主人公になり、再登場したり、また共通する事件の当事者だったりする。しかし、今では多くの作家に用いられ、珍しい手法ではない。

 第一章「隠れ鬼」。認知症の母とひっそり暮らす男性。母が描いた絵が、彼の封印された過去をえぐり出した…。第二章「虫送り」。深夜に虫取りに出かけた小学生兄妹を待ち受けていたのは…。第三章「冬の蝶」。あくまで、彼は彼女を助けたかったのに…。

 前半三章は、いずれも悲劇的結末を迎え、特に第二章、第三章は唾棄すべき社会問題も孕んでいる。いわば、典型的な道尾作品である。ところが読み進めると…。

 第四章「春の蝶」。あの人物が、少女と老人を巻き込み、さらなる悲劇に? 第五章「風媒花」。誤解を抱えた青年に、病に伏せる姉の思いは届かないのか? 第六章「遠い光」。限界を痛感する女性教師と、複雑な家庭環境の少女に、光はあるのか?

 ありきたりな言い方をすれば、後半三章は心温まる作品が並んでいる。前半三章とのカラーの大幅な変化が、本作の意外性と言える。最後の章では前半三章の人物についても触れられ、何とも憎いというか、用意周到なことか。と思いきや…。

 集英社のサイトに掲載されたインタビューによると、最初から全編の構想があったわけではないという。「隠れ鬼」は単発の依頼だった。その後、繋がり合った形で全六話にしようということになった。当初は徹底的に悲惨な話を六つ書くつもりだったとか。

 ところが、どういう心境の変化か、後半は救いがある展開になった。心情的にも、環境的にも、その時にしか書けなかったものがこの全六章だという。こうして全六章が並んでみると、不思議と違和感はない。今しか読めない貴重な道尾作品と言える。



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