道尾秀介 15

月の恋人

〜Moon Lovers〜

2010/06/03

 「月9」原作! と帯にでかでかと書かれた道尾秀介さんの新刊である。正直、「月9」のブランド力が落ちている今、どれほどの宣伝効果があるのか心許ない。僕は道尾秀介の作品だから手に取った。「月9」という枠内で何ができるのかに興味もあった。

 結論から言うと、フジテレビ側の要望をかなり取り入れており、実に「月9」らしい作品になっている。最初は色眼鏡で見ていたけれど、思っていたより楽しめた。しかし、「月9」であろうとするあまり、道尾秀介作品の面影はどこにも感じない。

 彼と別れ、勢いで会社もやめ、上海旅行に飛び出したヒロインの弥生。そこで、新興の家具メーカー・レゴリスの若き社長、葉月蓮介に出会う。彼は上海支社のオープニング記念パーティーのため、たまたま上海に来ていた。

 主人公とヒロインの出会いからして「月9」らしいご都合主義で、ロマンスを解さない僕は苦笑しながら読んでいた。2人に美貌の中国人モデルや蓮介の部下が絡み、お約束の展開へまっしぐら。かく言う僕は、「月9」を真面目に見た経験がないのだが。

 ドロドロが得意なフジテレビのドラマ向けにしては、いい人だらけでドロドロの要素は少ない。ドロドロにはなりかけたのだが…何だよその急転直下な解決は。上海と日本を股にかけた割には、こぢんまりとまとまっている。というのは、小説としての感想で、ドラマ版では人物設定などもかなり変わっているらしい。何でも5角関係だとか…。

 それにしても、フジテレビの後藤博幸プロデューサーは、なぜ道尾さんに打診したのだろう。あとがきによると、「この人、映像業界の人間にできないことができるのではないか」と思ったそうだが、本作を読んだ限り、この仕事が道尾秀介でなければならない理由がわからないし、やっていることは従来の「月9」と変わっていない。

 4枚のコインの謎かけや、線香花火の奥深さはなかなか面白かった、とフォローしておこう。って、道尾さんのオリジナルネタなのか?



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