道尾秀介 21


笑うハーレキン


2013/01/18

 本作を読み終えて、道尾秀介さんご自身のある作品を即座に連想した。テイストが近いように思う。しかし、その作品名を挙げるわけにはいかない。

 主人公はホームレスの家具職人・東口。かつては家具メーカーを経営していたが、取引先の倒産により連鎖倒産。やがて家族も失った彼は、川辺の空き地に住みつく。ホームレス仲間との共同生活を送りつつ、日銭を稼いでいた。

 東口の家具職人としての腕はかなりいいようだが、定職に就こうとはしない。家族のことを引きずっている彼は、この空き地に留まっている。仲間たちは互いの過去を決して詮索しない。ある日、東口の栄華を知る奈々恵が転がり込んできた。弟子にしてほしいという。追い払うつもりが、仕事を手伝わせるうちに、居ついてしまった。

 全5章からなる本作は、大きく前後半にわけることができる。前半では、社会の底辺で健気に生きる彼らに、これでもかと悲劇が襲う。読者の中には疑惑が渦巻くだろう。そして、ある仕事で東口は因縁のある人物を見かける。彼はついに行動を起こし…。

 その結末は読んでください。ここまでで十分に作品として完結しているが、後半はカラーが変わる。東口は造りつけの棚の修理依頼を受ける。金に糸目はつけないというが、奇妙な条件が付いていた。理由を尋ねることは許されないらしい。

 小さな仕事も手を抜かない東口だが、大仕事に充実感を感じていたかもしれない。ところが、もうすぐ完成という時になり…。最後の最後に怒涛の展開が待っているとだけ書いておこう。緊迫する場面のはずなのに、どこか愉快だ。

 本作の仕掛けは最初から始まっていたことを、ようやく知る。客観的に見て、東口の非は大きいと言わざるを得ない。非を非と認めたくないのが人間の弱さ。しかし、非を認め、自身ときっちり向き合って、初めて人間は前に進める。

 本作は、東口がようやく一歩を踏み出すまでの物語である。この先の未来は想像するしかない。彼と仲間たちが、笑って暮らせますように。



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