湊かなえ 05 | ||
夜行観覧車 |
繰り返しになるが、僕の湊かなえ作品に対する評価は辛い。結末に近づくほど、どんどん醒めていく。本作もさほど期待せずに読み始めたわけだが…。
ところが、本作はすいすいと読み進み、先が気になって手が止まらない。例によって重い話なのに、読むのがちっとも苦痛ではない。むしろ楽しい。なぜだろう。作り物じみていることが多い湊かなえ作品の中でも、屈指と言えるリアリティが、その一因と思われる。
動機といい家族関係といい、その辺にごろごろ転がっていそうな、ありそうな話なのである。日々報道される、どこかの家庭を襲った不幸。本作を読んでいると、ワイドショーでも見ているような感覚に陥る。リポーターのしたり顔が目に浮かぶようだ。
へぇ、大変だねぇ、そんなこともあるんだねぇ…と、他人事のように流しつつ、透ける興味は隠せない。つまりは、僕の野次馬根性が、本作を読ませているのである。僕のメンタリティは、本作の狂言回し的役割を持つ、小島さと子に極めて近い。
コンプレックスの塊のような遠藤家の長女・彩花。彼女は近所にある私立女子中の入試に落ち、坂を下った公立中に通っていた。それだけに、向かいの高橋家で起きた事件が、愉快で愉快で仕方ない。しかし、些細な優越感で彼女の心の穴は埋まらない。
僕自身、中学時代も今でもコンプレックスの塊だから、彩花の心理も、高橋家の慎司の心理も、わからないことはない。一方で、母親たちに悪気はないのもわかる。些細なきっかけで引火してしまうほど、お互いの鬱屈は積み重なっていたのだった。
そして、影の薄い父親たちに代わって活躍(?)するのが、小島さと子という困った人物。悪びれもせず、ひばりヶ丘を守るためなどと主張する。しかし、読み終えてみればただの噂好きというわけではなさそうである。好きにはなれないが、功績は認めたい。
さて、ごたごたをどうやって収拾させるのかと思ったら…え????? 予想は裏切られたが、何だよこの無理矢理きれいにまとめたような結末は…。ここまで楽しく読んできて、拍子抜けとしか言いようがない。終盤までの高評価が、読み終えると結局辛くなった…。