湊かなえ 13


望郷


2013/02/11

 湊かなえさんは広島県の因島出身だという。かつては日本唯一の「一島一市」、因島市として知られていたが、2006年に本土の尾道市に編入され、因島市は消滅した。本作は、因島をモデルにした架空の島、白綱島を舞台とした作品である。

 「みかんの花」。白綱島市閉幕式に、音信不通だった姉が帰ってきた。人気作家となっていた姉に、島に残っている妹は複雑な心情を抱く。誰が認知症の母の世話をしていると思っているのだ。ところが、姉が島を出た本当の理由とは…。

 第65回日本推理作家協会賞短編部門受賞作「海の星」。白綱島出身の男性に、上京してくる同級生が会いたいという。彼の父は、小学校6年の頃失踪していた。…うーむ、面倒を避けたいのはわかるし、予想外の真相だったけれど、そんなのあり?

 「夢の国」。タイトルでばればれだが一応伏せる。そう、あの有名スポットです。白綱島の名家に生まれた彼女は、高校まで島内で過ごし、大学も島から通学し、卒業後の職場は島内だった。ようやく、望んだ場所に辿り着いたのではなかったか?

 「雲の糸」。高校卒業と同時に島から逃げ出し、ようやく掴んだ夢。ところが、二度と帰る気がなかった島に行かなければならない。いい思い出などない。原因を作った母への苛立ち。ようやく湊さんらしい嫌らしい展開になってきたと思ったら…。

 「石の十字架」。台風で浸水した家に残された母娘。元々島の出身ではない彼女は、娘と身を寄せ合いながら回想する。彼女の後悔が、現在とどう繋がるのかと思ったら…。色々な現代的テーマを扱い、やや詰め込みすぎか。長編にもアレンジできるだろう。

 「光の航路」。都会に特有ではないこの問題。悩める教師は、同じく教師だった亡き父とのわだかまりを抱えていた。彼の誤解を解いてくれたのは…。やはり教師であるその人物の話は壮絶だが、結局真相は、えーと、やっぱり、ごにょごにょ…。

 前半3編と後半3編はそれぞれ似た構成を持つのが特徴的だが、飽きさせないのはさすがと言える。本土と橋で結ばれようが、島は島。島だから望郷の念に駆られる。



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