高田崇史 『密室本』02


QED 式の密室


2002/03/04

 本作は、高田崇史さんのデビュー作から続く『QED』シリーズの一作らしい。"QED"とは「証明終わり」を意味するフランス語"quod erat demonstrandum"の頭文字であり、確か数学用語だったと記憶している。

 もしかして理系もの? とお思いの方。内容はバリバリの文系だ。タイトルの「式」とは数式ではなく、陰陽師が使役していたと伝えられる"式神"である。ルビなしでは読めない(あっても読みにくい)出典名の数々。このシリーズはすべてそうなのか?

 密室で遺体となって発見された、「陰陽師の末裔」。事件は自殺として処理されたが、"式神"の存在を信じる孫の弓削和哉は他殺説を唱えるが…。

 陰陽師ブームが数々の「安倍晴明」関連本を生み出したことは記憶に新しい。その多くで、ヒーローとして描かれていることは表紙を見ただけでも容易に察せられた。おそらくブームの発端であろう、京極堂こと中禅寺秋彦も然り。

 本作は、そうした晴明関連本とは一線を画すと言っていい。伝説の陰陽師安倍晴明の闇に迫り、"式神"の本質を突く。これとて仮説の域は出ないのだが、晴明伝説の考察には十分に感心させられる。この優れた考察により、「密室」事件の真相に深みが増す。シリーズの主人公同様、薬学部出身にしてこの考察には恐れ入る。

 この長さでこれだけ読ませれば文句なしだが、主人公が謎解き後の決め台詞に「証明終わり(QED)」と言うのはちょっと引っかかるかもしれない。説得力のある説ではあるが、これはあくまで仮説であり、正しくは「説明終わり」だ。数学の世界では、反する例が一つもないことを示して初めて"QED"となるのだから。

 仮説に仮説を積み上げる普段の自分の仕事を考えれば、偉そうなことは言えないんだけど。まあ、戯れ言だと思って流してください。



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