高里椎奈 『密室本』03 | ||
それでも君が |
ドルチェ・ヴィスタ |
うむ、これも密室なのだろうか。感想を書くのが難しい作品である。
高里椎奈さん作の『密室本』第三弾は、分類すればファンタジーの範疇に入るだろう。全世界の住人はたったの31人。世界としては小さく、密室と言うには大きい。人間らしき者から四足歩行の獣らしき者まで、住人たちの姿形は様々。
『密室本』としてどうかはさて置き、このユニークな世界観は一読に値する。
ファンタジーに求められるものって何だろう。わくわくさせるような大冒険か。魅力的な主人公か。色々あるだろうが、一つの答えが本作にあると思う。本作の世界観は、終始ぼかした描き方をしている。描写が足りないと受け取る方もいるかもしれないが、だからこそ逆に読者の想像力をかき立てるのではないか。
密室物の新しい解釈としても面白い試みだ。密室物というジャンルのほとんどは、どこかに抜け道があって実は密室ではなかったというものが多い。読者もそれを承知して読んでいるし、楽しんでもいるのだが。これは正真正銘の密室―閉じた世界。
ここが私の秘密基地です。どうぞお気軽にお入りください。そして少しでも何かを感じて頂ければ嬉しく思います。願わくばこの場所が、皆様の地図に書き込まれることを祈りつつ……。
以上はあとがきからの引用である。そう、子供の頃には秘密基地があった。やがて大人に見つかり、僕らは基地を失った。うまく言えないが、僕は確かに本作に何かを感じた。ラストの解釈は人それぞれ。大人にこそ読んでほしい作品だ。
限られた長さの中で、他のメフィスト賞受賞作家たちはどんな世界を見せてくれるのか。