宮部みゆき 01


パーフェクト・ブルー


2000/05/20

 宮部さんの長編デビュー作。初の長編で、いきなり冒険をしている。

 本作の語り部を務めるのは、蓮見探偵事務所の用心犬にして、元警察犬のマサである。動物を語り部にした作品を僕は他に知らないのだが、本作に関する限り、この試みは成功を収めたと言えるだろう。

 事件はいきなり凄惨な幕を開ける。蓮見探偵事務所の調査員、加代子とマサは、諸岡進也少年を探し当てて連れ帰る途中だった。そこで、高校野球界のスター選手が全身にガソリンをかけられて焼き殺されるという事件に出くわしてしまう。しかも、その選手は進也の兄、克彦だった…。

 そもそもミステリーは悲惨な話を扱うのが常だが、どうせ読むなら楽しく読む方が精神衛生上好ましいというものだ。マサを語り部に据えたことにより、事件の凄惨さを必要以上に意識することなく読むことができる。もちろん、宮部さんの文章力に拠るところも大きい。初の長編にして、宮部みゆきは宮部みゆきだったのである。

 語り部に留まらないマサの大車輪の活躍ぶりも見ものだが、人間の最注目キャラクターはやはり進也だろう。ちょっと生意気なところがあるが、進也はよくできた少年である。あのような状況下で、家族を思いやることはなかなか出来ないと思う。進也と克彦が、いかに仲のいい兄弟だったか想像がつく。それだけに、悲しさが募る。

 いつの日か、この試練を乗り越え成長した進也の物語を読んでみたい。 



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