宮部みゆき 02


魔術はささやく


2000/05/15

 本作で宮部作品にはまったという声を、よく耳にする。第2回日本推理サスペンス大賞受賞作となった本作が、宮部さんの出世作であることには異論はない。しかし、申し訳ないが僕は本作に対してはやや疑問を持っている。

 本作のメインとなるのは、三人の女性の死の謎だろう。一人目はマンションの屋上から飛び降り、二人目は地下鉄に飛び込み、三人目はタクシーの前に飛び出した。それぞれの死は、社会面の片隅に小さく載っているだけ。相互の関連性になど誰も気付かぬ中、四人目に魔の手が伸びつつあった…。

 本作の主人公日下守は、母亡き後に伯母の下へと引き取られていた。三人目の女性を轢いたタクシー運転手は、伯母の夫だった。守は知らず知らず事件の真相に肉薄していく。

 これだけでも、作品として十分に成り立つところなのだが、守を中心とした物語はそれだけに留まらない。母を亡くすまで過ごした、故郷での寂しい生活。大切な友人だった「じいちゃん」と、彼に教わったある特技。高校のクラスメイト三浦との確執。アルバイト先の大型スーパー「ローレル」で起きる、不可解な事件。救いの神のように現れた、ある中年男性…といった具合に盛り沢山である。

 ネタばれになるので詳しくは書かないが、個々のエピソードはいずれもスリリングで面白い。ただ、読了してみると内容を欲張りすぎてまとまりを欠いている印象を受けた。もう少し内容を絞っても良かったのではないか。本作を、日下守少年の戦いの物語と捉えればいいのかもしれないが。

 フォローしておくと、守少年の境遇に負けない強い生き方には、とても好感を持てた。強がりではない、本当の強さを守少年に感じる。一方で、弱さを垣間見せるシーンもあったりするので、読者の母性本能をくすぐるのだろう。

 それにしても、三浦は嫌な野郎である。ざまあ見ろ!



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