宮部みゆき 13


長い長い殺人


2000/05/24

 現代人は実に様々な物を持ち歩く。携帯電話然り、MDウォークマン然り、モバイルコンピュータ然り。しかし、誰もが必ず持ち歩く物といえば、財布だろう。これだけは、昔も今も変わらない。

 本作は、財布を語り部にした一風変わったミステリーだ。持ち主に個性があるように、財布にもブランド物から壊れかけた安物まで様々な個性がある。様々な持ち主の様々な財布たちが、連作形式で物語を綴っていく。

 当然ながら、財布たちは言葉を話せない。また、多くの時間を持ち主のポケットの中か、バッグの中で過ごすため、外の様子はうかがえない。一方で、会話だけは耳に入ってくるので、時には持ち主に迫る危機を察知する。しかし、財布たちには知り得た事実を持ち主に伝える術がない。何ともどかしいことか…。

 読んでいるうちに、財布たちに代わって持ち主に伝えてやりたい気持ちになってくる。このアイデアには脱帽である。さて、肝心の内容は…。

 僕自身、色々なミステリーを読んできたつもりだが、一連の事件の実行犯を利用した真犯人には心底腹が立った。よくもしゃあしゃあと、マスコミに顔を売ったものだ。今ごろは逆の意味で注目を浴びていることだろうが。

 それから、小宮雅樹少年の両親に言ってやりたい。我が子の必死の訴えよりも、どこの馬の骨ともわからない男の言い分の方が、信憑性があるのか? それほど、真犯人は口八丁に長けていたのだろうか。ああ、今思い出しても腹立たしい。おかげで、彼がどれだけ深い傷を負ったことか。

 と、腹立ちが治まらないまま本作を読み終えたが、何だか自分の財布が愛しく思えたのだった。その財布は、今でも僕と行動を共にしている。



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