宮部みゆき 14


とり残されて


2000/11/30

 本作の文庫版装丁は、僕の読書仲間の間では大変評判が悪い。まあ、確かにセンスがいいとは言いがたいかな…。宮部作品の中では地味な存在であろう本作だが、内容はさすがに宮部さんと言ったところか。

 妄想、あるいは幻想を扱った作品を揃えているのが、本作の特徴である。僕が思うに、本作に収録されたような作品は難易度が高いだろう。ちょっと一線を踏み外せば、何でもありの世界に陥ってしまう。読者の共感を誘うことに注力しすぎても、作為の臭いが鼻につく。いかにしてバランスを保つか。

 そういう点で、「私が死んだ後に」、「いつも二人で」は、うまくまとまってはいるものの、僕個人としては作為が感じられてあまり好きではない。テーマがテーマだけに、結末が綺麗すぎかな。

 また、最後に収録された「たった一人」。北上次郎氏絶賛の作品だが…。解説でもほとんどこの作品の話題に終始しているが、おいおい他の作品にも目を向けてくれよ、と言いたいところだ。

 一方、表題作「とり残されて」は、婚約者を交通事故で失った女性の、哀しい物語だ。やり場のない怒りと恨みが、彼女の暗い妄想を生み、そして共振した。彼女の無念は、永遠にとり残されるのか。この救いのなさはどうだ。

 本作で最も印象深い一編として、僕は「囁く」を挙げたい。我が意を得たりとばかりに、自分の妄想を正当化してしまう男。ブラックユーモアが効いている、貴重な一編だ。個人的には隠れた傑作だと思っている。「おたすけぶち」もいい。交通事故死したと思われていた兄が、実は…という怖い話だ。どこが「おたすけ」なものか。

 うまいにはうまいのだが、好みが分かれる作品集かな。難しいテーマに取り組んだことには拍手を送りたい。



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