宮部みゆき 17


淋しい狩人


2000/10/02

 本作は、東京の下町に居を構える古書店、田辺書店を舞台にした連作短編集である。主であるイワさんこと岩永幸吉と、孫の稔。二人が切り盛りするこのありふれた古書店で、本を巡って様々な事件が繰り広げられる。

 お爺ちゃんの元へ足繁く通う孫、という図が興味深い。今時じゃほとんど見られない光景だろう。幼い頃ならともかく、稔は高校生なのだから。ちょっと考えさせられる。祖父に―巻頭に記された宮部さんの言葉である。

 まず「六月は名ばかりの月」。本作を読む前から、後半が袋綴じになっているビル・S・バリンジャー著『歯と爪』の存在はたまたま知っていたが、この短編を読み終えて、ますます興味が膨らんだ。しかし、未だに読むには至っていなかったりして。意味深なタイトルもうまい。

 本作の個人的ベスト1、「うそつき喇叭」。ラッパってこんな字を書くのか。これは作中に出てくる童話のタイトルである。詳しくは書けないが、童話らしからぬ内容には苦笑してしまう。この童話と巧みにリンクしたストーリーには唸らされる。考えたくはないけどありそうな話だな…。

 個別に印象に残ったのは以上だが、最後の2編「歪んだ鏡」「淋しい狩人」では、現代社会では貴重と言えるイワさんと稔の良好な関係に亀裂が入る。店に顔を見せなくなった稔。イワさんの寂しさはよくわかる。でも…いずれ稔は独立する。たとえ肉親でも、プライベートに立ち入りすぎじゃない?

 最後は無理やりまとめたという気がしないでもないかな。パンチの弱さがちょっと残念である。イワさんと稔は、この後どのように付き合っていくのだろう。なお、文庫版解説によれば、本作のモデルになったたなべ書店は、実在するそうである。



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