宮部みゆき 28


理由


2000/05/10

 数々の文学賞に名を連ねた宮部さんだが、本作『理由』により、その華々しい受賞歴に直木賞が追加された。ただ、小説としての評価は分かれるのではないだろうか。

 東京は荒川区にある高級マンション、ヴァンダール千住北ニューシティで起きた、一家四人惨殺事件。本作は、事件関係者へのインタビューを織り交ぜてまとめられた事件の記録として書かれており、ルポルタージュ色、社会色が極めて強い。実際、朝日新聞夕刊紙上での連載中には、ノンフィクションと勘違いした方も少なからずいたようだ。

 事件を取材したであろう記者(?)とは違い、当然ながら読者は事件の経過を一切知らない。だから、本作は一見ノンフィクションのようでミステリーには違いない。しかし、事件の経過に沿って時系列順に書かれてはいないので、ミステリーとして読むと少々読みにくいかもしれない。何と言うべきか、とにかくあらゆる事件関係者へのインタビューを敢行し、オンエア直前に慌てて編集した報道フィルムを見ているような印象を受ける。本作をルポルタージュとして捉えれば、それも当然か。

 ルポルタージュ性云々はともかく、内容的には色々と疑問が残る。『理由』というタイトルに反して「理由」がわからない。それが僕の偽らざる感想である。事件の重要参考人とされた男は、なぜ家族を放ったらかしにしてまで身を隠さなければならなかったのか。そして、真犯人は一体何を考え、何を望んでいたのか。結局事件の真相は何だったのか。曖昧模糊とした印象が拭えないまま、僕は本作を読み終えた。

 しかし、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので、現実の事件に目を向ければ、すべてに合理的な説明がつくようなケースはむしろ少ない。そう考えると、本作は限りなく現実の事件に近いとも言える。現実の事件に対して有識者連中が示す、もっともらしい見解に違和感があるように、本作にどのような解釈を与えてもやはり違和感は拭えないような気がする。

 ある意味で、本作は不可解さに満ちた現代社会を象徴している作品かもしれない。



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