映画版

クロスファイア

2000/06/19

 以下、完全に主観が入っていることを予めお断りしておく。

 正直なところ、あまり期待しないで観に行ったのだが、素直に言おう。これは予想よりはるかに面白かった。嬉しい誤算である。

 脚本は、『鳩笛草』に収録の「燔祭」と、『クロスファイア』を統合させたものである。その結果、淳子が恋に落ちる相手は木戸浩一ではなく多田一樹だったり、『クロスファイア』における浅羽敬一に該当するのは小暮昌樹だったり、淳子を射殺したのは木戸浩一ではなく悪徳警部だったりするのだが、特に違和感は感じなかった。淳子に救いがあるという点で、原作よりもむしろいい。

 主演の矢田亜希子さんが大当たりだ。最初は演技が臭いなあと思っていたのだが、物語が進むにつれて、矢田さんは青木淳子そのものになっていた。何よりも目がいい。芯の強さと、念力放火能力者としての悲哀が同居した、観衆に強く訴えかける目。こういう目には、弱かったりして…。多田一樹役の伊藤英明さんも、なかなか泣かせてくれる。

 石津ちか子役の桃井かおりさんも、イメージにぴったりだ。全体的に重いストーリーの中で、絶妙のアクセントになっている。あの演技は、地なのだろうか? 

 小暮昌樹役の彼(名前忘れた)の演技もうまい。良くも悪くも、今時の若者像をうまく体現している。劇中の彼は、引っ叩いてやりたいくらいひたすら憎々しげなのだが、それは優れた悪役である証拠だろう。

 一方、脚本上仕方ない面もあるのだが、木戸浩一(こちらも名前忘れた)の存在感が薄いし、僕のイメージよりも若すぎるかな。すっかり多田一樹の引き立て役に成り下がっていた。しかし、最大のミスキャストは、ガーディアンのトップである長谷川部長を演じた永島敏行さんだろう。悪役としては深みが足りないし、小暮昌樹に食われてしまっている。ちょっと永島さんは悪役向きじゃないかな。

 難癖をつけるのはこのくらいにしておいて…とにかく、本作は矢田亜希子さんの魅力に尽きる。特殊効果も見事だが、決して特撮の見た目の派手さに頼った作品にはなっていない。観に行って損はない。

 ちなみに、丸腰の相手に向かって「撃てえ!」などと指示を出すのは絶対におかしい、とは一緒に観に行った友人の弁である。



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