宮部みゆき 33


模倣犯


2001/04/01

 宮部みゆきさんの久しぶりの現代物長編は、上下巻で総計3551枚という近年でも稀に見る大作である。これまでに僕が読んだ中で最長の作品だが、感想はただ一言で済んでしまう。事件は食材だ。それに尽きる。

 東京は墨田区の大川公園で発見された女性の右腕が発端となった、連続女性誘拐殺人事件。第一発見者。犠牲者。その遺族。犯人。犯人の家族。マスコミ。警察。目撃者。名もなき多くの証言者。事件関係者を列挙していったらきりがない。それでも、その数は日本国民のほんの一握りに過ぎない。

 確かに、無残な死を遂げた犠牲者がいる。犯人になぶられる遺族がいる。事件を追いつつ葛藤する駆け出しのルポライターがいる。自らに重荷を課した少年がいる。そして、憎むべき犯人がいる。読者に訴える要素には事欠かない。それでも、やはり思う。事件は食材だ。大多数の第三者の中では、いずれ賞味期限を過ぎてしまう。

 しかし、遺族や犯人の家族の中では決して鮮度が落ちない。さあいつでも召し上がれ、と耳元に囁きかける。たとえ親しい友人だろうと、当事者以外にはこの感覚は決してわかるまい。そんな当たり前のことを突きつけているところに、本作の恐ろしさがある。

 本作に特定の主人公はいない。様々な事件関係者に視点が移る。もし、誰か一人の視点を選べと言われたら、さてどうするか。喜んで犯人の視点を選ぶ人はいても、遺族や犠牲者の視点を選ぶ人はいないだろう。その方が楽だから。現実の事件に対する見方と、何ら変わらないではないか。

 くどいようだが、事件は食材だ。嗜好が分かれるようで、実は誰もが味わうことを望んでいる、とびきり高級な食材だ。宮部さんは、それを限りなく素のままで提供したのだ。ウェルダンではなく、血の滴るようなレアを。

 個人的に言うならば、第二部で終わってしまうという手もあっただろう。第二部までの展開は素晴らしかった。あとがきによれば、「週刊ポスト」誌上での連載期間は予定の倍以上になったという。第三部だけは少々火加減が強めだったかな。

 とはいえ、こうして連載は終わり、単行本刊行された。宮部さんにとっても、読み終えた僕にとっても作品は完結した。しかし、遺族の中では永遠に連載は続く。



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