宮部みゆき 57 | ||
ソロモンの偽証 |
第III部 法廷 |
3ヵ月連続刊行の大作、ついに完結編である。一気に読み終えた。
5日間にわたり行われる学校内裁判。保護者の関心は極めて高く、傍聴席は大盛況。亡くなった少年の両親もいる。マスコミはシャットアウトしているが、あの男はしれっとして紛れ込んでいる。もっとも、彼の今回の立場は証人なのであった。
いやはや、序盤から感心すると同時に苦笑した。裁判ごっこなどと書いてしまったけれど、判事、検事、弁護士が本気でぶつかる真剣勝負である。検事側、弁護側双方が召喚した証人には同級生もいるが、大人がほとんどである。それなのに、この堂に入った尋問はどうだ。僕がもし証人だったら圧倒されるだろう。
僕は裁判所という施設に立ち入ったことすらないが、これは本物の裁判と言わざるを得ない。彼らが誰にも知恵をつけてもらっていないのなら、末恐ろしい。同級生の立場で傍聴していたとしたら、検事役の彼女には近寄りたくない。何もかも見透かされそうだ。
双方軽くジャブを食らわせたところで、3日目の審理は証人の希望により非公開となる。心身のバランスが危うい証人に対し、法廷は配慮するものの、譲れない部分は譲らない。なぜなら、これは裁判なのだから。証人のためでもあるのだから。
4日目に決定的な証言が出てくる。弁護側から被告人へのまさかの攻撃は、本人のためでもあり、別の目的もあった。この荒療治で決着…ではなかった。終日休廷の1日を挟み、法廷は本来の趣旨からどんどん逸脱していくではないか。
検事側は弁護人を証人として召喚する。弁護役を名乗り出た目的からして謎めいている彼が語ったのは…。いくら人並み外れて聡明な彼でも、まだ中学生である。ここまで自らの素性を白日の下に晒されるのは酷にすぎる。現実の裁判でこんな展開はあり得ない。それなのに、彼の証言に惹き込まれて行く。クールな判事も聞き入るしかない。
最後の最後に本物の裁判らしさが吹き飛んだ上に、きれいにまとまりすぎて予定調和な気はしないでもないが、結果的に、真実を明らかにするという目的は果たされたと言っていいだろう。陪審員の評決も心憎い。学校内裁判をやり切った彼らの精神力に敬意を評したい。彼らの熱意は、邪な大人をも動かしたのだ。