森 博嗣 05

封印再度

WHO INSIDE

2000/09/07

 「犀川&萌絵」シリーズのファンにとっては、犀川と萌絵の仲がいかに進展するのか、興味が尽きないことだろう。第5作となる本作では、犀川と萌絵が急接近…か?

 50年前、日本画家の香山風采は息子の林水に「天地の瓢(こひょう)」と「無我の匣(はこ)」なる家宝を残して密室で謎の死を遂げた。家宝と風采の死の秘密は、現在にいたるまで誰にも解かれていない。そして今度は、林水が死体となって発見された…。

 事件のことより犀川と萌絵のエピソードの方が印象に残っているのだが(と言うよりよく覚えていない)、すっかり騙された。僕が単純なだけかもしれないが、反則だよ森さん。しかし、香山家の家宝のトリックを犀川が明らかにした瞬間、すべてを許せる気になった。いやあ、目から鱗が落ちた。大好きだな、こういうトリック。

 「天地の瓢」とは壺である。中には鍵が入っているが、狭い口から取り出すことはできない。「無我の匣」を開けるには、その鍵が必要だ。もちろん、家宝を割るなどもってのほか。さて、どうするのだろう? もちろんここには書けない。それは犀川の萌絵のロマンス共々、読んでのお楽しみということで。

 なお、立ち読みしたエッセイ集『森博嗣のミステリィ工作室』によれば、香山家の家宝「天地の瓢」と「無我の匣」のトリックが物理的に可能であることを、実証した方がいたそうである。こんなところにも、シリーズの人気がうかがえる。

 ただし、本作以降のシリーズ作品がやや冗長に感じられるのも事実である。森ファン以外の読者には、犀川と萌絵のロマンスなど余計でしかないだろう。なぜか『このミステリーがすごい!』には縁がない森作品だが、こうした点に理由があるのかな。もちろん、それは同時に森作品の個性でもあるのだが。

 それにしても、このタイトルは座布団十枚に値するね。



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