森 博嗣 10

数奇にして模型

NUMERICAL MODELS

2001/07/22

 「犀川&萌絵」シリーズ完結まで本作を含めて2作、というところでページ数が急増した。「瀬在丸紅子」シリーズに入って以降ページ数が抑えられているので、今から思えば破格に長い。ノベルス版で最初に読んだ頃は、とにかく全作読破に夢中になっていたものだが。

 模型交換会会場の公会堂で、モデルの女性が首なし死体となって発見された。現場の控室は密室状態。同じ密室内で昏倒していた大学院生に嫌疑がかけられたが、彼はほぼ同時刻にM工業大学で起こった女子大学院生殺人事件の容疑者でもあった。現場の実験室はやはり密室だった…。

 相変わらず事件に首を突っ込む萌絵。そうでなくては成立しない本シリーズだが、今回の萌絵は無防備すぎるぞ。怖いもの知らずにも程がある。卒論提出を控えた時期にこんなことでいいんかい…などと、当時準備の遅れに焦りまくっていた僕は要らぬ突っ込みを入れてしまうのだった。金子君はいい奴だ。

 それはさて置き、密室にこだわる(?)森作品だが、今回は密室が二つだ。さらに首なし死体。森作品としては異例の猟奇的雰囲気が漂う。そんな本作に相応しい、戦慄すべき犯人像。異常か正常か以前に、これは純粋に怖い。

 犯人の趣味こそ犯行の元凶、と断じるのは容易い。しかし、それでは発砲事件とモデルガンの愛好家を、猟奇殺人事件とホラー映画の愛好家を結びつけるようなもの。本作はむしろ、そうした短絡論に釘を刺しているように思う。同時に、本作に森さんの模型への愛情を感じる。鉄道模型も、フィギュアも、ロボットも…あらゆるジャンルに分け隔てなく。

 僕も小学生時代にはガンプラ(わかる?)ブームの洗礼を受けた世代である。今では模型を作ることもないが、それだけ遊び心を失っているのかもしれない。そんなことを考えつつ、模型愛好家を羨ましくも思う。

 『微小と有限のパン』が文庫化されれば、シリーズ全作の文庫化が完了する。それにしても、萌絵の従兄という大御坊安朋のインパクトは強烈であった…。



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