森 博嗣 23

工学部・水柿助教授の日常

Ordinary of Dr. Mizukaki

2000/12/24

 「これは小説である」と、作中でしつこいくらい連呼されている。そう言われて素直に納得する読者はいないだろう。森さんも百も承知だろうけど。本作が、小説の名を借りたエッセイ集であることは明白だ。

 本作の主人公であるN大学工学部建築学科の水柿助教授を、森博嗣に置き換えて読むなというのは無理な注文だろう。設定によれば、水柿助教授は後に作家としてデビューすることになっているのだから。水柿助教授が日常で体験したおかしな出来事の数々を、筆の赴くままに書き連ねている。森博嗣版『徒然草』とでも言えばいいだろうか。

 百歩譲って第一話、第二話はミステリィと思えないこともないが、その後は書きたい放題である。実名は伏せてあるとはいえ、大丈夫なんだろうか? 「小説」なのだから脚色してあるにしても…。読者の知ったことじゃあないが。

 本作を読んで、大学の理系学部は変な人間ばかりだと思った人は多いだろう。工学部出身の僕としては、それを否定はしない。こいつどこかぶっ飛んでいると思われるくらいじゃないと、研究者としての資質はないのかもしれないし、大成もしないのかもしれない。作家も然り。僕は自分が普通だともぶっ飛んでいるとも思っていないが、少なくとも研究者の資質がないことは自覚している。

 僕自身はそこそこ楽しんで読めた作品である。しかし、言い方が悪いかもしれないが、本作はファンクラブの会報くらいに思っておいた方がいいだろう。不特定多数を対象にした本ではない。森作品が好きであることはもちろん、森博嗣という人物にも興味を持っている人のみ手にするべき作品である。

 やたらと多い自己突っ込みを、あなたは笑い流せるか、それとも鬱陶しいと感じるか…。幻冬舎は太っ腹である。



森博嗣著作リストに戻る