森 博嗣 27

スカイ・クロラ

The Sky Crawlers

2001/06/28

 この装丁はかなり惹かれる。ジャンルを問わずに新刊には帯が付きものだが、本作には帯がない。正確には、プラスチック製の透明なカバーが帯を兼ねているのだが。カバー同様に透き通るような雲の上の空。そして、印象的なフレーズ。

僕はまだ子供で、ときどき、右手が人を殺す。
その代わり、誰かの右手が、僕を殺してくれるだろう。

 森作品としてはダークな作風だろう。舞台はどこか。時代はいつか。曖昧模糊な作品世界。わかるのは、主人公であるカンナミ・ユーヒチが戦闘機のパイロットであること、そして彼が配属されたのは最前線の基地であること。

 カンナミたちパイロットの任務は、敵機を撃墜することにある。しかし、彼らは所属する組織を軍隊ではく「会社」と呼ぶ。これはどういうことだ。いわば、民間の軍隊なのだろうか? 彼らの会社は、敵を殺すことで利益を上げているのか?

 未だに記憶に新しい湾岸戦争の報道は、現代の戦闘がいかにデジタル的かを印象付けた。それに比べて、カンナミたちの世界で繰り広げられる戦闘は実にアナログ的だ。だからこそ怖い。任務の名の下、ゲーム機のコントローラを握るような感覚で、右手が人を殺すことが。戦争にデジタルもアナログもない。

 色々と深読みはできる。最後に明かされる、カンナミたちの戦慄すべき秘密。彼らは、指示待ち族などと称され、また些細なことで暴力を振るう現代っ子の象徴なのか。戦争を知らない大人たちに捧げよう…で始まる冒頭のメッセージが、読み終えてみて改めて読者に突き刺さる。

 ファンタジックでもあり、予見的でもあり、そして悲しい。森さんはまたまた不思議な作品を世に送り出してきた。この読後感は何なのだろう。カンナミはこれからも飛び続けるのか。誰かの右手が、君を殺してくれるまで…。



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