森 博嗣 32・『密室本』01

捩れ屋敷の利鈍

The Riddle in Torsional Nest

2002/01/16

 本作はVシリーズ第8弾に当たるが、同時に講談社ノベルス創刊20周年記念作品でもある。メフィスト賞作家による「密室」をテーマにした競作書下ろしの一冊であり、2002年中に随時刊行が予定されている。枚数制限があるらしく、200p未満の手頃な長さとなっている。袋綴じの装丁は単に煩わしいだけのような気がするが…。

 Vシリーズとしては異例ずくめの作品である。事件に関わるレギュラーキャラクターは保呂草潤平一人。しかし、ビッグゲストとして何と西之園萌絵が登場するのだ。講談社ノベルス20周年記念作品であるが故の読者サービスなのかどうかはともかく、これは森博嗣ファンなら見逃せるはずがない。

 今回の舞台となる「捩れ屋敷」は凄いぞ。記念作品に相応しい、あまりの馬鹿馬鹿しさ。内部の部屋が徐々に捩れ、一周したところで180度捩れて元に戻るという「メビウスの輪」構造なのである。ここで起きた「密室」殺人。そして、90度捩れた中間地点に据えてあった秘宝「エンジェル・マヌーバ」が消えていた…。

 特筆すべきは「捩れ屋敷」の構造と萌絵の登場くらいであり、事件の真相については特にどうということもない。このとんでもない構造ならではのトリックを期待していたんだけど。もう一つの「密室」も十分大仕掛けなのだが、「捩れ屋敷」と比べると地味に感じてしまう。でも、萌絵というキャラクターの華に免じて許しましょう。

 Vシリーズの本来の探偵役である瀬在丸紅子は、最初と最後にちょっとだけ顔を出すのみ。そこで仄めかされる、保呂草を驚愕させたある事実とは何なのだ? 萌絵との接点とは一体? もったいぶったまま終わるところはVシリーズらしい。

 シリーズ完結の暁には、明らかになるんだろうか。そして、二大シリーズのコラボレーションは今後もあるのか。何だかんだで今後も僕は付き合うだろう。講談社といい森博嗣さんといい、まったく商才に長けているよな。



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