森 博嗣 34

君の夢 僕の思考

You will dream while I think

2002/07/08

 唐突だが、改めて森博嗣ミステリィの特徴を考えてみる。熱心なファンの非難を承知で言うならば、本筋以外の部分がとにかく長い。意地悪く言えば冗長だ。僕のようにトリックにしか目が向いていない読者は、ことさらにそう思う。

 だが、僕はその冗長さが嫌いではない。森博嗣作品からあらゆるぜい肉を削ぎ落としてしまうと、それはもはや森博嗣作品ではなくなる。綾辻行人さんのようなストイックさは、森博嗣作品にはそぐわないし、求めてもいけない。そのくらいは僕も承知している。ある意味、本筋以外の部分にこそ、森博嗣作品のアイデンティティーがある。 

 前置きが長くなったが、本作である。一言で言えば、過去の森博嗣作品からの引用集だ。文章を拾う作業はすべてPHP研究所の編集者が行っている。

「私には正しい、貴方には正しくない……。いずれにしても、正しい、なんて概念はその程度のことです」
『すべてがFになる』 497頁

 ずっとこの調子である。森博嗣作品は印象深い文章の宝庫だね、うんうん。でもね…少なくとも新刊とは言えんだろうが、これは。確かに、「書き下ろし」の短いメッセージと「撮り下ろし」かわからないが写真が付く。だが、帯のどこにも「引用」とは書かれていない。てっきり全編書き下ろしかと思ったではないか。

 文章の切れ味に惹かれるという森博嗣ファンは多いそうだ。森博嗣という作家のこだわりを感じる本ではある。こうしたこだわりの数々を読み流してしまう僕は、きっと熱心な読者ではないのだろう。でもね、この手の企画物はこれで最後にしてください。

 中身を確かめずに買う方が悪い? ほっとけ。



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