中町 信 01 | ||
新人賞殺人事件 |
念のため、本作を読む予定がある方は、以下の文章は読まないことをお勧めする。
最近、本作が書店で平積みされているのは気になっていた。帯には煽り文句が並ぶが、過大な期待をしていたわけではない。僕はミステリーに精通しているとまでは言えないが、それなりの数を読み、それなりに読み慣れた、「擦れた」読者の1人ではあるだろう。
坂井正夫という人物が、青酸カリによる中毒死を遂げたところから物語は始まる。自殺として処理されたが、出版社に勤める中田秋子、ライターの津久見伸助、2人がそれぞれに坂井の死に疑念を抱き、真相を探ろうとする。2人の視点が交互に描かれる。
デビュー作とはいえ、文章が拙い印象を受ける。特定人物に感情移入するようなタイプの作品ではなく、淡々と読み進む。本作は純然たるパズラーであり、人物は記号に過ぎないのだが、不要な人物も多く、推敲不足と言わざるを得ない。
あなたは、このあと待ち受ける意外な結末の予想がつきますか。ここで一度、本を閉じて、結末を予想してみてください。「第四部 真相」の扉に、このように書かれている。クイーンばりの読者への挑戦状か。もはや焦点は結末のみ。
読み終えて、正直びっくり仰天はしなかった。構造がややわかりにくいためでもあるが、最大の理由は、文庫版解説にもあるように、現在ではこの手法を用いた作品が多数あるためだろう。僕も何回引っかかったことか。だがしかしである。
中町信さんが本作を書き上げたのは昭和46年2月。初版刊行当時はさっぱり受け入れられなかったという先駆性は、賞賛に値するだろう。売れた作家とは言えない中町信さんだが、本作に影響を受け、売れっ子になった作家はきっといるに違いない。
以下、既読の方のみ反転させてご覧ください。それにしても、同一人物を別人と誤認させる例は多いが、同姓同名の別人を同一人物と誤認させるのは、ちょっと苦しいかなあ。個人的には、ネット時代には起こり得ないある誤認の方が、笑えたかも。