中町 信 47


暗闇の殺意


2014/01/16

 僕は中町信という作家を買っていなかった。光文社文庫のラインナップにその名を見かけたとき、また過去作品の文庫化かと思ったが、文庫オリジナルの短編集だという。

 全7編中、1987年刊行の短編集『Sの悲劇』から3編、雑誌掲載作品など単行本未収録短編が4編という構成。どうせなら『Sの悲劇』を復刊すればよかったのに。結論から言うと、大変面白い作品ばかりのお買い得作品集だった。

 「Sの悲劇」と「年賀状を破る女」はダイイング・メッセージもの。「S」と書き残して、犯人のイニシャルでしたなんてことは許されない。「年賀状を破る女」は凄い。こういう形のダイイング・メッセージを他に知らない。少なくとも独創性は評価しなければならない。

 「濁った殺意」は、これまたダイイング・メッセージもの。途中でネタがわかってしまうのはご愛嬌。動機の面も含め、興味深い1編。「裸の密室」は、密室ものとアリバイものの融合。男女関係のゴタゴタといい、ありきたりなはずが、なぜか味わい深い。

 「手を振る女」。アリバイものとしては初歩的だが、最後に事件の構図が逆転するところはなかなかうまい。「暗闇の殺意」は多くを語らない方がいいだろう。本格を構成する様々な要素が、この1編に詰まっている。演出もいいねえ。

 「動く密室」。これもそのまんまとだけ書いておこう。殺害されたある人物のねっとりさに苦笑した。しかし、本格において警察は道化役とはいえ、この体たらく…。

 7編とも極めてオーソドックスな内容だが、現在でも十分通用する。たったの2作品しか読んでいないが、中町信さんの長編作品は良さより瑕疵が目立つ。短編の方が、無駄がそぎ落とされ、良さが出ているのではないか。

 中町信さんの著作に短編集は少ない。まだ埋もれている短編があるなら、是非とも作品集としてまとめてほしい。未読の長編にもまたチャレンジしようかと思えてきた。本作を出しくれた光文社と、故中町信さんに感謝したい。



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